思考の整理学 / 外山滋比古(2024 / 1983)
・外山滋比古(とやま しげひこ)さんは、文学博士で、独自の思考方法を提案しています。本作品は、1983年の執筆ですが、40年経っても教わることが多い名作です。今回、ワイド新版が再販されたので40年ぶりに再読しました。
思考の整理学 / 外山滋比古(2024 / 1983)
・研究テーマの熟成法
「文学の研究」をビールの醸造法で例えてみる。作品を読み、納得するところ、違和感をいだくところ、分からないところを書き抜き、素材とする。これが、ビールづくりの麦に当たる。これに、ヒントやアイデアという発酵素を加えて、寝かせて熟成させることでおいしいビールになる。時がたてば、熟したテーマは、向こうからやってくる。
テーマは、ひとつでは少なすぎて、2つ、3つのテーマ持つことで、思考が広がる。ものを考える人間は、自信を持ちながら、あくまでも謙虚でなければならない。
様々な知識や経験や感情があるところに、一人の人間の個性が加わることで、知識と知識、感情と感情が結合して、新しい知識や感情を生み出す。
思いがけない偶然から、新しい発見が導かれるセレンディピティは数多く存在する。日頃から探求している中心的課題よりも、周辺的なことでセレンディピティが発生することが多い。
・思考の整理法(1)
我々の周りにある事象や現実は、「自然と人為」の2つに分けられる。具体的、即物的な思考や知識は、第一次的思考である。同種を集め整理し相互に関連づけると第二次的な思考・知識になる。さらに、同種の間で統合・抽象化すると第三次的情報となる。第一次情報を第二次情報に変える方法には、ダイジェストや要約、レビュー、アブストラクトなどの方法がある。思考の整理とは、低次の思考を、抽象化し、メタ化していくことである。整理し、抽象化を高めることで、高度な思考となり、普遍性が高くなる。人知の発達は、情報のメタ化と共にあった。ちょっとした着想、具体的な知識にはこと欠かないが、それを整理、統合、抽象化し、体系にまで高めるのは容易ではない。思考の整理には、平面的で量的なまとめではなく、立体的、質的な統合を考える必要がある。
浮かんだアイデアは、忘れる前にメモ帳に記録しよう。メモ帳は、時々見直して、気になるアイデアをノートに書き写してみる。このノートは、一度ふるいに掛けられたアイデア集。時々見直して、考えをまとめたり、文章にしてみよう。
これまでは、頭の優秀さは、記憶力の優秀さと同じ意味を持っていた。しかし、コンピューターが登場して、人間が必要とされる能力に変化が生じた。人間は、記憶力を高めるより、創造力を高めることが重要となった。人は、睡眠時間に頭の中を整理している。だから、朝は思考のゴールデンタイムである。思考力が鈍ってきたら、机を離れて、気分を変えるのが良い。お茶を飲みに出たり、散歩するのもいいだろう。一つの仕事で疲れが見えたら、まったく別のことをするのも良いだろう。
・思考の整理(2)
一時の思い付きをメモして、1~2週間後、価値があると思ったら、ノートに書き写す。さらに、数週間後、価値があると思ったら、メタノートに書き写す。2度の選別試験と「時の試練」(時間の風化作用)に耐えたアィデアは、何かを生み出すだろう。思考の整理とは、その人が持っている関心、興味、価値観によってふるいにかける作業である。
とにかく書いてみよう。書いているうちに頭の中の筋道が立ってくる。書き進めば進むほど、思考が整理され、先が見えてくる。考えていなかったことが頭に浮かんでくる。とにかく、終わりまで書いて、全体を見直してみよう。書き直しをすることで思考の整理が進んでいく。声に出してみる、人に話してみるのも思考の整理に有効である。
文章上達の方法は、三多といい、本を多く読む、文章を多く書く、文章を多く推敲することである。良いアイデアを生む方法は、三中といい、無我夢中で考える、散歩中など一定のリズムに身を置く、入浴中などリラックス状態に身を置くことと言われる。
具体例を抽象化して定型化したのが、ことわざの世界である。個人の経験や考えを、一般化して普遍性の高い形にまとめることが思考の体系化である。
私たちの相反する能力が備わっている。ひとつは、与えられた情報を改変しよう、脱出しようという拡散的作用、もうひとつは、バラバラになっているものを関係づけてまとまりに整理しようとする収斂的作用である。人は、拡散と収斂を繰り返し思考を深めてきた。
これまで、知的活動の中心は、記憶と再生であった。ただし、コンピューターという優秀な記憶再生の装置が生み出され、人間は創造性の向上が望まれるようになった。思考の整理法を学び創造的な人間になって欲しい。