具体と抽象 / 細谷 功(2014)

・具体的と抽象的は、日々耳にする言葉ですが、この言葉の意味を正しく理解していますか? 具体と抽象の意味を理解して、日々の生活に活かしましょう。

具体と抽象 / 細谷功(2014

・人間が頭を使って考える行為は、「具体と抽象を往復」しています。「具体」は、目に見える実体と直結し、「抽象」は目に見えない(実体と乖離した)ものです。このため、一般的には、具体=わかりやすい、抽象=わかりにくい、と捉えられます。

・人間は、言葉や数を操ることで、知識を蓄積し、科学のように役立つ体系的な理論を構築し、さまざまな道具を開発、活用してきました。言葉と数を生み出したのが、「複数のものをまとめて、一つのものとして扱う」「抽象化」という概念です。

・「数」の場合、リンゴ3個、犬3匹、松の木3本、本3冊を「まとめて同じ」と考えて「3」という数字が成立しました。「言葉」の場合、マグロもサケもカツオもアジも「まとめて同じ」と考えて「魚」と定義することで、「魚を食べよう」という表現が可能になりました。

・「抽象化」とは、枝葉を切り捨てて幹を見ること、他のものとの共通の特徴を抜き出して一つにまとめて扱うことです。複数のものを共通の特徴をもってグルーピングして「同じ」と見なすことで、一つの事象における学びをほかの場面でも適用することが可能になるのです。「抽象化」とは、複数の事象の間に法則を見つける「パターン認識」の能力です。身の回りのものにパターンを見つけ、それに名前をつけ、法則として複数の場面で活用する。人間は、「エネルギー」という概念を、「熱、運動、高さを同じエネルギー」と捉えたおかげで、発電など、科学の進化に貢献しました。抽象化なくして科学の進化、人類の発展はなかったのです。

・具体は、基本的に「個別」を扱います。抽象は、個別をまとめて、「関係性」や「構造」で扱います。マグロ < 魚 < 動物 というグループ化は抽象の考え方です。歴史の勉強で、個別の出来事だけでなく全体を広くとらえて、因果関係を全体で捉えることが抽象化の考え方です。

・具体と抽象という言葉自体が相対的な関係性を示す概念です。手段と目的にも相対的な関係があります。抽象度が低い目的と、抽象度が高い上位目的が存在するのです。

・「リーダーなら、発言がぶれてはいけない」と「リーダーは、臨機応変に対応すべき」この矛盾するようなメッセージも具体と抽象で切り分けられます。リーダーの発言の一貫性は、哲学や基本方針とうい抽象度が高いレベルでは、簡単に変えてはいけません。ただし、具体的に実現する手段では、環境に応じて臨機応変に変えるのは必然です。議論のミスマッチは、このレベル感のずれによるものです。会社でも一般社会でも、不連続な変革期には、抽象度が高い議論が求められ、連続的な安定期には具合性が高い議論が必要になります。抽象度が高いほど、本質的な課題に迫るので簡単に変化はしないものです。本質をとらえるとは、表面的な事象から抽象度が高いメッセージを導き出すことなのです。

・仕事は、抽象から具体への変換作業と言われます。最上流と最下流では、違う仕事と言えるほど、必要な価値観やスキルセットが変わってきます。上流で重要なのは個人の創造性で、下流で必要なのは多数の人間が組織的に動くための効率性や秩序であり、そのための組織やマネージメントやチームワークです。上流は自由度が高い仕事で「質」が求められ、下流は自由度が低く「量」が求められます。

・個人でも組織でも、哲学、理念、コンセプトという抽象的概念があると、統一感や方向性を与えてくれます。個別の判断に迷いがなくなり効率的に判断できます。抽象化能力を活用して、将来のビジョン(最終的に何を実現したいのか?)を明確にすることで、大きな目標と日々の行動が有機的につながり、行動に意味を持つのです。

・「目標」にも抽象的なものから具体的なものまでさまざまなものがあるでしょう。ある大学生のサンプルですが・・・①世界中の人々を幸福にしたい、②日本の子供に勉強の楽しさを教えたい、③理科の学習用スマホアプリを作りたい、④プログラミング教室に通い、資格を取りたい・・・では、抽象度は、①>②>③>④ となり、具体性は、④>③>②>① となります。目標は、抽象レベルと具体レベルを階層化させ、つながった目標になっているのが理想です。具体と抽象のいずれか一方では、不完全で、具体と抽象の往復が必要なのです。具体と抽象は常にセットで、全体を見て、それらを連携させた上で、計画と実行のバランスを取っていくことが重要なのです。

・抽象化と具体化は、セットで考えましょう。まずは、徹底的に現実を観察して、実践の活動を通して世の中の具体をつかみ、それを頭の中で抽象化して思考の世界に持ち込む。過去の知識や経験をつなぎ合わせてさらに新しい知を生み出したのち、再び実現可能なレベルに具体化するのです。これが理想的な、知と実践の相互活用のメカニズムです。

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